共有物分割における分割方法【全面的価額賠償という選択肢について】
主に相続をきっかけにして、複数人で(主に兄弟姉妹で)不動産を共有しているという状態はよく耳にされると思います。
この点、民法が共有ではなく単独所有を原則としていることからも明らかですが、共有状態はイレギュラーな状態であって、その状態が永続することは少なく、遅かれ早かれ、使用方法や売却の方針を巡って共有者間の意見が分かれ、共有関係の解消が問題となるケースが多いです。
民法第256条以下では、共有物分割の方法として「現物分割」「代償分割」「全面的価額賠償」の3つを定めています。
中でも「全面的価額賠償」は、一人の共有者に所有権を集中させることができるため、実際に不動産を使用している共有者にとっては、最初に検討するべき選択肢となります。
現物分割と代償分割の限界
共有物分割の原則は、各共有者が持分に応じて現物を取得する「現物分割」です。
しかしながら、大半の不動産は、物理的に切り分けられないか、物理的に切り分けると価値が著しく下がってしまうため、実際には現物分割が適さないことの方が多いです。
そこでよく用いられるのが「代償分割」です。これは、一部の共有者が不動産を取得し、他の共有者に対して持分相当額の金銭を支払う方法です。
尤も、この方法では依然として複数人が現物を取得することもあり、完全な共有解消には至らない場合もあります。
全面的価額賠償という合理的な解決策
これに対し、「全面的価額賠償」は、共有物の全部を一人の共有者が取得し、他の共有者にその持分の評価額を金銭で支払うという方法です。
現物を分けずに経済的価値で清算するため、共有関係を完全に解消できる点に特徴があります。
判例・通説では、現物分割が著しく不適当であり、かつ取得者が他の共有者に対し相当額の支払いを行うことができる場合には、全面的価額賠償を認めるとしています。
すなわち、取得を希望する共有者に資力があれば、共有物分割の現実的な解決策として十分に採用可能な手段となります。
実務上の留意点と進め方
全面的価額賠償を実現するためには、まず不動産の評価額を正確に把握し、他の共有者の持分に相当する資金を準備できるかを検討する必要があります。
上手く話し合いが纏まれば、(一括払ではなく)分割払が受け入れられる可能性もありますが、基本的には一括払を前提に資金を準備して頂く必要があります。
資金を準備できることを前提に、まずは共有者間で話し合い、合意が難しいようであれば、裁判所に対して、全面的価額賠償を命じる旨の判決を求めて共有物分割請求訴訟を提起することになります。
経済的合理性と公平性の両立を
共有関係の解消は、単に権利を整理するだけでなく、共有者それぞれの感情や経済事情を調整するプロセスでもあります。
全面的価額賠償は、資力のある共有者が現物を引き取り、他の共有者が公正な補償を受けるという、双方にとって納得感の高い形での終局的解決を可能にします。
当事務所では、任意交渉から共有物分割請求訴訟まで、豊富な経験をもとに総合的な法的支援を行っております。
不動産の共有に関するお悩みや、相続不動産の整理をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。


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